【街歩きと横浜史/ブックレビュー】高木彬光『「横浜」を作った男 易聖・高島嘉右衛門の生涯』(光文社文庫、2009年)

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【街歩きと横浜史/ブックレビュー】高木彬光『「横浜」を作った男 易聖・高島嘉右衛門の生涯』(光文社文庫、2009年)

もし「当たるも八卦当たらぬも八卦」の判断が百発百中だったらどうしますか? というような不思議な話が根底にある、かつての横浜を舞台とした実話に基づいた小説です。

人生の節目節目で占いに判断を仰ぐ場面が出てくる、その度百発百中の占いの腕をもって正しい道、未来を言い当てる、その繰り返しによって財を成し、街を作り、有力者に信頼され・・・という、易断家であり実業家であった、高島嘉右衛門さんのお話ですね。

今の横浜にも実際に残る高島町の町名や「高島学校」の記録、さらには横浜におけるガス事業史の記録など、少なくとも嘉右衛門さんの実績には「嘘」が入り込む余地がなかったりします。

嘉右衛門さんは今でいうベンチャー企業創業の才に長けていたようで、若い頃から難しい判断のほぼ全てを正しく裁いて進めていくのですが、本当にそのすべての根拠が「占い」なんですね。

もし話を盛るとしたら、結果を出している以上「易断に頼っていた」という方法論に関する部分で話を盛らざるを得ないわけですが、そうすると「盛っていた」部分の本当のところは本物の予知能力か、あるいはそれに近い超人レベルの洞察力だったのだとなって、むしろ「易断」以上にオカルトじみた話になってくる、嘉右衛門さんは易断能力以上の何かすさまじい超能力を持っていたのだということになってしまうわけです。

そこで少なくとも、彼と同時代を生きた人たちは、彼の類まれな易断能力を認めて敬意を払ったのだ、ということらしいです。

作中には、読んでいて背筋が寒くなるような易断もいくつか挙げられています。

一つは佐賀の乱の首謀者として打ち首獄門の刑を受けた江藤新平の未来を、本人に対して具体的に予言している点、日清戦争後の三国干渉を、伊藤博文や西郷従道への進言として予言している点、日本海海戦の歴史的大勝を伊藤博文に対して予言している点、その伊藤博文に対して、ハルピンで韓国人テロリストの安重根によって暗殺される最期を予言している点、等々。

実業家として台頭していくまでの下りにも読み応えがあるのですが、その評判を聞きつけて懇意となっていく時の大物政治家との関わりがメインとなる後半は、ところにより強烈なのめりこみ要素を持っています。

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