この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。
元々が”おもてなし”がどうこうという話しなのですかね?
参考:産経新聞 “日本が誇るおもてなし精神もついに限界か 「富士山ローソン」契機に外国メディアも論議“、読売新聞 “「ローソン富士」に幕設置、観光客ほとんど見られず…散歩で通る住民「ちょっとさみしい」“
これって元々ワシントンポストが見だしにしているような”おもてなし”がなんだという話しではなかったような気がするのですが、その辺どうなのでしょうか。
さらに、恐らくはインバウンド(日本であれば、海外からの訪日客。逆に日本人の海外旅行客であれば”アウトバウンド”)に限った話ではないですよねという憶測も働いてしまうところではあるのですが、いずれにしても一連の”オーバーツーリズム”(観光客激増に伴う種々の問題発生)が深刻な状況をもたらしていたという、富士山ローソンことローソン河口湖町店の話題ですね。
最初に一つ言っておくと、河口湖って富士山のほぼ真北すぐのところに位置しているので、何も件のローソンに拘らずとも、湖畔を歩くか、あるいは周辺の観光施設に入ってしまえば、いくらでも”富士山スポット”って用意されていたりします。
元々河口湖をはじめ富士五湖(富士五湖観光連盟公式サイト)はそれで売っている観光地なので、それも当然といえば当然の話しではあるのですが、要は”映え”狙いってことで、それでも”ローソン富士山”にこだわる理由というのが、外国人観光客を中心とした一部の層にあったのでしょう。
このことが理由の一つとなった結果、SNS時代特有ともいえる、巨大な落とし穴が作られることになってしまったんですね。
とりあえず、「”映え”に拘って、自分が美しいと感じる景色を追いかけたい」などというその気持ち自体はわからなくもないのですが、件の地を訪問するにあたっての最初の条件としては、現状が現状なだけに過去形になってしまいますが、端的に言えば「受け入れる側に”観光客をもてなす義務”が要求される場ではなかったのだ」という点への理解が必須だったところでした。
観光地の中にある、恐らくは地元民も利用するであろうごく普通のコンビニだったわけですからね。
この手のサービス(?)って、あくまでサービスを受ける側(今回の問題で言えば、写真を撮りに来る側ですね)の良識に依拠した、受け入れエリア側の”黙認”をベースとしたものであることもまた、良くある話です。
“隠れスポット”的な場のお約束としてはあるあるといった感じで、つまりは”おもてなし”以前の話しなんですよね。
件の富士山ローソンにしても、積極的に何かを打ち出していたというよりは、元々はただ”富士山目当ての観光客が日々増加していった”という状況を黙認していたのではなかったでしたっけ?
そんな感じには記憶していますし、それが(少なくとも日本の従来の良識的には)普通の対応でもあったと思います。
その後、問題が深刻となった後での対応を迫られた辺りから、話題になったんでしたよね。
強いて和風な表現を用いるのであれば、富士山ローソンなどという「”古来からの日本のシンボル”+”何の変哲もない今日日の日本の日常”」のコラボ、つまりは”普遍的なもの”と”日々移ろいゆくありふれたもの”の対比を観光地の観光スポット外にて狙っている時点で、それはおもてなしを求めて然るべき場面などではなく、どちらかというと「現代版・侘び寂びの世界」の要素が加味された話し(訪問者には、観光上のマナーと共に、現地の日常生活上の常識が要求される場面)として捉えるのが自然な場面です。
すべてが非日常な時間ではなく、実は「地元民にとってのあるがままの日常」に片足を突っ込んだ上での時間となっていたのだということで、(ワシントンポストの見出し的な見方をしているという)インバウンドに関しては、恐らく、ここに最初の誤解があったのでしょう。
つまりその場合は”郷に入りては郷に従う”ことが必要だった、より深く日本の常識(=良識)を理解することが必須な場面だった、ということなんですね。
尤も、良識云々といったところで、近年の日本では”カスハラ“やバイトテロなどをはじめとする迷惑行為なんかが常態化して久しい状況でもあるので、日本国内ですらなお徹底出来ていない、況や海外からの観光客をや、なんて話にはなってしまいそうではありますが、理屈としてはそう解釈すると腑に落ちるものもあるのではないかと思います、といった話しでした。
これはあくまで憶測ですが、対応が結果として後手に回り、深刻な状況になってから全てを一律に否定することになったという対策が取られている時点で「元々”おもてなし”を期待すること自体が無理筋な場所だった」ってことでもあったのではないかと思います。
もし仮にそういう対応が可能なのであれば、”サスティナブル・ツーリズム”の範疇で”富士山ローソン”を観光スポット化するという選択肢もあったのかもしれませんが、少なくとも今回はそうでなかったというように、常にそういう対応が出来るケースばかりでもない、やはり難しい問題ではありますよね、なんてことを改めて思わされました。
参考:【祝・復権/きっかけはあのゲーム?】熱海の地価が上昇し、”人気観光地”復活が言われていますが、【物議/テレビ番組の”ライン”は?】今や一億総中流時代ではないですからね。
24.6.2追記
参考:ローソン公式サイト “「ローソン河口湖駅前店」および「ローソン富士河口湖町役場前店」の対応について“
残念ながら、誤解を正さずに前に進もうとすることによって、さらなる面倒毎が増えないとも限らないような状況なのかもしれません。
「大々的に観光スポット化できる場所ではなかった(マップを見る限り、住宅街の中にある、ごくごく普通のコンビニです)」「マナー悪化によって現地の黙認の限度を超えてしまった」という前提無視でただただ面白おかしく「けしからん」とやるような、ある意味信じがたい次元で質の悪いメディア(ex.東洋経済オンライン “「富士山を黒幕で隠す」日本のダメダメ観光対策“)が増えてくるようなことがあれば、沈静化しかけた騒動が無駄に加熱してしまうという、誰も得しない事態へと繋がりかねません。
元々東洋経済オンラインの記事は評判があまりよろしくないことでも有名ですが、上記で例に挙げた記事については、いわゆる”出羽守”の論調を柱とした上で初めに結論ありきのポジショントークに終始し、かつ現地の事情にはまともに触れようともしていないという、二重三重の意味で特にひどいものです。
つまりは、皆が皆、まともな知識・教養・常識を持って反論しているわけではないのだ、ということなんですよね。
「たら・れば」の話しとして、皆が皆のマナーがしっかりとしたものであり、その上で、ただただ”観光客増”のみの問題だったのであれば、恐らくは今回の対策とは違った結論が用意されていたことでしょう。
ですがそもそもがそういう話しではなかった、その上でまずは迷惑行為が問題となってここまで来ているのだという部分については、特に今回のような典型的な”残念記事”と似たような視点から似たような考えを持つに至っている場合、再度振り返ってほしい部分かもしれません。
全くご愁傷様ですというより他ありませんが、今後の展開如何では「元々が希望に沿えるような状況下にある場ではなかったのです(加えて、富士山+河口湖関連の観光スポットは、他にいくらでも用意されています)」ということまで含めた上で、丁寧な説明が必要になってくるところかもしれませんね。
追記その2
強いて海外云々ということで事例をあげるのであれば、今回の”富士山ローソン”の話しは欧州の美術館等を引き合いに出して語ることに適した事例ではなく(あまりに見当違い過ぎる比較ですね)、大混雑やマナーの悪化が”禁止”をもたらしたという点については、豪州のエアーズロックの話しとほぼ同じ類の話しです。
参考:訪日ラボ “金輪際お断り「リスペクト無き旅行者」豪エアーズロック、永久に登山禁止を決定:観光公害はどのように解決されるべきか?“
もし、このページにたどり着いた”河口湖から富士山を”などと考えている観光客の方がおられましたら、その場合はそういう(仮に観光地の中にあったとしても、現地に住む住民の日常生活との兼ね合いから、必ずしも観光スポットとして展開することが可能なケースばかりでもないということを)理解をしてから現地へ赴くように(旅行好き日本人の一人として)お願いします。
追記その3
参考:NHKニュース “SNSで話題の富士山撮影スポット 相次ぐ無断駐車に駐車場開設“
件のローソンがある河口湖町とは別の自治体ですが、同じく河口湖の近隣にあたる富士吉田市では、「商店街の向こうに富士山が見える」景色を楽しみにということで増加した外国人観光客への対応が可能だったことから、新たに駐車場が開設されました。
24.6.13追記
参考:読売新聞 “「コンビニ富士」の黒い幕にQRコード、他の撮影スポットを紹介…撮影ブームは一段落“
“富士山ローソン”付近では、その後も膜に穴をあけるなどの迷惑行為が続いた後、地元自治体が現地の黒幕傍に観光案内QRコードを張り付けることによって、漸く事態は収束に向かっているようです。
対応可能な”落としどころ”提示によって、一連の問題に漸く解決の兆しが見えてきた形ですね。
タグ