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【未解決事件】横山ゆかりちゃん誘拐事件と、北関東連続幼女誘拐殺人事件
事件の概要
機縁
2023年夏の青春18きっぷ旅で訪れたJR上越線・土合駅(群馬県利根郡みなかみ町)にて、件の事件の情報提供を求めるポスターを見かけたことをきっかけとして、記事化しました。
以下、“横山ゆかりちゃん誘拐事件”(以下、ゆかりちゃん事件)の事件の概要と現在の状況、さらには件の事件との関連が疑われるそのほかの重大事件(北関東連続幼女誘拐殺人事件、飯塚事件)についてまとめています。
事件の概略をはじめとする主な内容は、清水潔『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』を参考にしました。
関連
- 群馬/新潟青春18きっぷ旅
- JR上越線・土合駅にて(モグラ駅要素)
- 清水潔『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮文庫、平成28年6月1日)
横山ゆかりちゃん誘拐事件
はじめに群馬県警の公式サイトより、”ゆかりちゃん事件”の概要を引用・要約します。
ゆかりちゃん事件は、
「平成8年(1996年)7月7日午後、群馬県太田市内のパチンコ店に家族とともに来店していた横山ゆかりちゃん(当時4歳)が、店内で1人遊んでいるうちに行方不明となった略取誘拐容疑事件」(※)
で、現在、
「ゆかりちゃんが行方不明となる直前にパチンコ店店内においてゆかりちゃんに声をかけていた男(身長158cm位|ニッカズボン様 | サンダル様|サングラス)」(※)
が、重要参考人として特定されています(※:群馬県警公式サイトより引用)。
公式情報によると未だ未解決の状態にあるとされているため、情報提供者には捜査特別報奨金(上限額300万円)と太田遊技業防犯協会からの私的謝礼金(上限額300万円)、合わせて600万円の報奨金・謝礼金が、現在も設定されてはいるのですが・・・。
ところで、と言う部分について、以下に続けます。
参考
- 群馬県警察公式サイト “ゆかりちゃん誘拐事件“
5件の未解決事件と1件の冤罪事件
現在でも警察発表では未解決事件だとされている、個別の事件として見ても重大事件である“ゆかりちゃん事件”が持つ真にやっかいであり恐ろしい性質は、他の重大事件との関連性、および(記事最後にまとめる理由から)迷宮入りの可能性がしばしば指摘される点にあります。
他重大事件との関連性
元々”ゆかりちゃん事件”の容疑者と目される男には、1990年に栃木県足利市で発生した誘拐殺人事件(足利事件。後述)の真犯人と目されている男と風貌が非常によく似ているという目撃者の証言があった他、地元住民の間では、北関東エリア(栃木県足利市・群馬県太田市)で昭和末から平成中期にかけて発生した連続幼女誘拐殺人事件との関連が指摘される面もあったようです。
当然ともいえる風評ではあると思いますが、一連の事件を発生順に並べると、
- 昭和54(1979)年に栃木県足利市で誘拐殺人事件
- 昭和59(1984)年に栃木県足利市で誘拐殺人事件
- 昭和62(1987)年に群馬県太田市で誘拐殺人事件
- 平成2(1990)年に栃木県足利市で誘拐殺人事件(足利事件)
以上の4件の未解決事件(連続幼女誘拐殺人事件)発生の後に、
- 平成8(1996)年に群馬県太田市で誘拐事件(ゆかりちゃん事件)
が発生しました。
上記した一部事件の目撃証言のほか、例えば事件の性質、発生場所、3年~数年刻みで同種の事件が発生しているという周期性が指摘できるほか、全ての事件の時間的範囲や、事件を追っていた腕利きジャーナリストが真犯人の存在を指摘した『ゆかりちゃん事件』を最後に犯行が止まっている点などは、単独犯かつ同一犯の犯行である可能性を強く示唆する要素ではあるでしょう。
この点、地域住民の不安は的を射たものだったといえるところになってきますが、この不安は、やがてそのまま警察組織へのプレッシャーとなって行きます。
“未解決事件”続発の恐怖
5件のうちゆかりちゃん事件以外の事件については、一見バラバラに見えるそれぞれの事件に、
- ターゲットが幼女である
- 誘拐現場が栃木・群馬の県境に位置する(足利市、太田市の)パチンコ屋である
- 死体遺棄現場が河川敷である
- 犯行期日が週末などの休日である
という共通項が存在するのですが、このうち3番目の条件以外は、全て(現在も行方不明のままとなっている)ゆかりちゃん事件にも当てはまる条件となっています。
事件を知る一部の地元の人たちの間では「小さい子がパチンコ屋に行くと人さらいにあう(だから子供をパチンコ屋に連れて行くな)」というようなことが言われた時期もあったようですが、これらの連続誘拐殺人事件発生を受けることとなった地元警察には自負するところやメンツを強く刺激される形の焦りが生じることとなり、やがて組織を挙げる形での強烈な圧が、現場の捜査にかかり始めます。
度重なる”未解決事件”の発生が、負の連鎖が生じがちな展開を作り上げてしまったんですね。
冤罪事件の発生
厳格なタテ社会の中での徹底した上意下達で組織が形成されている警察内部にあって、叱責も命令も、より厳しいものとなっていくのは自明のことではあったでしょう。
結果、現場の警察官たちは、組織上層部からのプレッシャー、地域住民からのプレッシャー、双方からの”圧”を受けながらの事件捜査を余儀なくされ、このうち一件の事件について誤認逮捕に始まる冤罪事件を”作り上げて”しまいます。
恐ろしい話しではあるのですが、どれだけ探しても見つからない犯人であれば、もっともらしい”犯人逮捕”の結論を作ってしまえばいいという方向へと、流されていくことになるんですね。
冤罪事件は”ゆかりちゃん事件”発生(1996年)の直近である1990年に足利市内で発生した誘拐殺人事件を巡るもので、事件発生地の市名から”足利事件”と呼ばれていますが、警察組織内の強圧が生み出した”歪んだ結論”は、法曹界他を巻き込んだ強力なアシストによって一気呵成に既成事実化されていきます。
司法の抵抗と組織改革、”報道しない自由”
足利事件の冤罪被害者の方(以下、Aさん)は、ある日突然何の前触れもなく、身に覚えのないことで自宅に踏み込まれて当局へ連行された挙句、連日連夜の脅迫と暴行の後に重罪をかぶせられてしまった、要は”犯罪者に仕立て上げられてしまう”という形の被害にあうこととなりました。
全く以って、恐ろしい話しですね。
足利事件では、運の悪いことに、当時開発途上段階にあったDNA型鑑定の脆さや科学捜査への過信(足利事件は、あらゆる面でここに翻弄され続けることとなりました)が事件解決の足かせになってしまったという不幸も重なってしまうのですが、Aさんに対して被された罪、つまり警察側が用意した筋書きや、その筋書きに沿って進められた法廷での審理には、当然のこととして一切の真実がありませんでした。
事態はそれのみで終わらず、一度法廷で(諸々の悪条件と共に出されたものであったとしても)結論を出した以上、その結果は厳格に守られなければならないとして、歪んだ判決に対する異議すらまともに唱えられない状況が固められていくという、本末転倒ここに極まれりといった状況に続いていきます。
ここで警察のミスを間接的にアシストすることになったのが、健全に機能していない(ジャーナリストを自称しつつ報じるべきを報じない、結果単なる警察広報に堕してしまっていたという)マスメディアの”報道しない自由”でした。
結果、警察・検察・司法さらにはマスコミが一体となった形の”鉄のガード”が形成されることとなるのですが、こうなると犯罪や事件とは無縁の一般市民にとってはひとたまりもありません。
この場合難しいのは、当時の捜査を取り巻く環境が、果して現場の警察官だけをとがめられる状況にあったのかという部分ですが、真面目な警察官であればあるほど、想像を絶するような自責の念・焦燥感に駆られ、挙句心身を削られもしたことでしょう。
そんな状態で皆が皆「警察法に規定する職権職務を忠実に遂行」(警職法一条)できたのか、そんな想像も働くには働いてしまいますが、ともあれ。
足利事件の冤罪判決は、警察庁による証拠の取り扱いに関するガイドラインの見直しや、取り調べの可視化など、事件再発防止に向けた具体的な取り組みへ繋がる契機を創出するなど、警察組織内の事件への取り組みにも大きな影響を与えることとなりました。
参考
- NHKアーカイブス “足利事件 菅家さん釈放“
- 警察庁公式サイト “足利事件における警察捜査の問題点等について“
- 日弁連公式サイト “足利事件“
“未解決事件”の所以
Aさんの再審無罪と、真犯人の存在
“冤罪事件としての足利事件”を暴いた”快挙”は、「一連の事件の真犯人がほぼ特定できた」ことを担保として、後に”冤罪事件”となった足利事件に切り込んだという凄腕のジャーナリストの仕事に依っています。
凄腕ジャーナリストとは、『殺人犯はそこにいる 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』の著者、清水潔さんですね。
“冤罪事件としての足利事件”が暴かれていく全過程には、最も根本的な部分に「足利事件は冤罪事件だ」=「なぜなら真犯人がこの人物だからだ」という論理構造が存在するのですが、元々一連の事件取材では”冤罪”それのみを暴くことが目的とされていたわけではなく、はじめから連続誘拐殺人事件の真犯人を白日の下に晒し、かつ警察に差し出すことが目的とされていました。
そういう仕事が冤罪を暴いた以上真犯人は特定されていないとおかしい、という話しになってくることから、本来であれば冤罪確定と真犯人逮捕はワンセットになっているはずだったのですが、現実には全ての事件は未だ未解決事件として扱われています。
そこに、とある警察サイドの身勝手といえば身勝手な、とてつもなく重い事情があったためです。
重い事情とは、当時開発途上にあったDNA型鑑定の鑑定結果にまつわる“警察の捜査上のミス”ですが、科学捜査への過信と共にある”DNA型鑑定の妄信”は、足利事件同様のものですね。
当局は、この捜査上のミスを隠蔽しようとする強い意思を働かせることになるのですが、こともあろうにその強い意思があったが故に、真犯人を取り逃がしてしまうこととなりました。
未解決の所以 -飯塚事件とDNA型鑑定-
話は“足利事件の不手際を当局が頑として認めなかった時期”に遡ることになるのですが、「足利事件はAさんが犯人である」というかつての警察・検察の主張では、断定するにあたっての根拠の一つに、当時の未成熟なDNA型鑑定の鑑定結果がありました。
未成熟であるがゆえに誤った結論を出してしまう、のみならずその謝った結論が「足利事件」の判決に大きな影響を及ぼしてしまうことになったのですが、既述のようにかつての検察・警察当局はその謝った結論を頑として撤回せず、全てをひっくるめて守りに入っていました。
そういう姿勢があったが故に「足利事件の真相」にアクセスする機会をみすみす失してしまったということなのですが、何ゆえに当局はそこまで頑なになったのか。
ここで対象となるのが“飯塚事件”と呼ばれている、冤罪の可能性が極めて高いことで有名な事件です。
かつての足利事件同様、現在も再審請求自体が非常に高いハードルとなっています(遺族は第二次再審請求中です)が、なんとも最悪なことに、飯塚事件では“確定死刑囚”の死刑執行後に問題が顕在化することとなりました。
ちなみに死刑判決の決め手となったのは、足利事件同様、当時の不完全なDNA型鑑定や信ぴょう性の疑わしい状況証拠、目撃証言などです。
“元死刑囚”が一貫して無罪を叫び続ける中で死刑執行された後、遺品から事件の犯人のものとは異なるDNA型が検出され、無罪だった可能性が高いことが判明しました。
ウソであってほしい、ネタであってほしいという次元の、悪夢のような事件ですね。
足利事件に再審で無罪判決が下されたのが2009年、飯塚事件で犯人とされた元死刑囚の死刑が執行されたのは、その前年にあたる2008年です。
残念ながらもはや償いようがない状態になってしまっていますが、足利事件でのDNA型判定のミスを認めてしまえば、必然的に”飯塚事件”でのDNA型鑑定の過ちも批判の対象となってきますということで、警察・検察が自らの威信を賭けて(?)、“DNA型鑑定にまつわるミス”隠ぺいに総力を挙げることになりました。
警察組織のこの手のムーブで何が怖いかって、少なからず常習性を感じさせるところにとてつもない怖さを感じたりもするのですが、ともあれ。
その後、再審で無罪判決を勝ち取ったAさんは釈放されたものの、結局DNA型鑑定のミスについてはうやむやにされたままとなった、刑事事件の真実探求を業としているはずの警察・検察組織にあって、これぞまさに本末転倒の見本のような理屈であり行動だったのですが、結局“失態”は隠蔽しきれず。
「天網恢恢疎にして漏らさず」ということか、ある意味最悪の形で衆人が関知するところとなりました。
参考
- 日弁連公式サイト “飯塚事件“
事件解決の機運と”3・11″
この冤罪事件、さらには一連の未解決事件を巡る動きの中にはまた、他にも特異だと思われる点、さらには非常に不運だったと思われる点が含まれていました。
それは常日頃どちらかというと国民の批判にさらされることが多い野党系議員(事件が騒がれていた当時は、与党側となっていたのですが)の言動が、最終局面において光った(最後の希望がそこに託されることとなった)点です。
冤罪事件の存在自体が白日の下にさらされた後、本来の目的であった未解決事件の真犯人逮捕に向けた動きが国会の場(参院行政監視委員会、参院予算委員会)において作られたことがあったのですが、そこで検察・警察サイドへの厳しい追及が的を射たものとなり、“在野から指摘された真犯人追及への道筋”が、二度に渡って国政の場で突き付けられることとなったのです。
なのですが・・・。
この冤罪事件を含む5件の未解決事件が国会でヒートアップし、「今度こそ」という流れが作られかけたていた正にその時、“1000年に一度の大災害”だと言われた東日本大震災が発生してしまったため、一連の流れは全てリセットされてしまうこととなりました。
まさに無念、ですね。
現状
“真犯人の逃げ得”許すまじとするのであれば風化させるには早い事件ではあるのですが、ローカル線の無人駅にて色あせていく情報提供を求めるポスターの態様は、事件の現状、さらには行く末を伝えてきているように伝わらなくもありません。
それでも”ゆかりちゃん事件”については現在でも形式上捜査が継続していて、一昨年には太田警察署によって新たな情報が公開されたりもしたようですが、そこがなんとも残念なところであり、同時に怖いところです。
参考
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